鏡の中の自分
楽屋でメイクをしてもらい、用意された衣装を着て。仕上げのヘアセットの間は鏡の中の自分と対面する時間だ。
どこからどう見ても自分なのに、どこからどう見ても自分とは思えない。もうすっかり慣れてもいいはずなのに、アイドルとして完成する直前のこの瞬間は、どうしても気恥ずかしさでそわりとしてしまう。
メイクも衣装も仕上げもプロの仕事だ。そしてここから先は自分自身の、プロとしての仕事になる。こんなところで気後れして、気持ちで負けるわけにはいかない。背を伸ばし、鏡の中の自分とまっすぐに向き合う。
ファンにも、プロデューサーにも、そして仲間たちにも。胸を張ってこの姿を見せられるように。
「準備できた?」
隣から声をかけられて、つい笑ってしまう。
「できました。いつも早いですね」
「いちばんに見たくて」
だからってみんなを急かしてるわけじゃないからね、と慌てた様子の言葉にスタッフのみんなが笑う。緊張感漂う本番前の楽屋が、和やかな雰囲気で満たされる。
「ぼくもじゅんびばんたん!」
「じゃあ行こうか」
皆が待っているステージに。三人並んで楽屋の出口に向かう、その前にもう一度、鏡の中の自分と目が合った。
どこからどう見ても自分なのに、どこからどう見ても自分とは思えない。アイドルとして完成した自分は少し緊張しつつも、堂々と背を伸ばして。そして、本当に楽しそうに笑っていた。
11/3/2023, 12:28:09 PM