藍間

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 昼休みの教室は、人が少なくて心地が良い。そういう場所では、私の思索もよく捗る。
「たとえば、タンポポの綿毛が運ばれていくように。風に身をまかせて飛んでいくことは、理にかなっているのだろうか。どこに落ちるともわからないのに、確率にかけて綿毛を飛ばすのは、非効率的ではないのか」
「あんたって浪漫がないよね」
 今日もまたそんな疑問を口にする私に、彼女は呆れたように言った。
「浪漫で子孫繁栄は不可能だ」
 いきなり飛び出した浪漫という単語は、私の辞書の中では異端に位置している。浪漫と効率はおそらく対極だ。浪漫には無駄が含まれている。少なくとも私はそう解釈している。
「そう? 人間の場合はそんな感じじゃん?」
 と、彼女はケタケタと笑う。なるほど、確かに人間の生殖には効率以外の要素が大きい。そもそも繁殖のために行われるものでなかったりする。そういう意味では、人間とは非効率な生き物だろう。
「なるほど、それは一理ある」
 となると、綿毛にも繁殖以外の目的があるのだろうか。風に乗って流されるその様を想像し、私は瞳をすがめてみた。
 たとえばその最中に風景を楽しむだとか。そういう余裕があるのなら、風に身をまかせるのも一興かもしれない。
「そこで納得するんだ」
「君の意見はいつも興味深い」
「そうかな? 普通だと思うけど」
 それに何よりこのやりとりそのものが酔狂だろう。ただ昼休みという時間を潰すためではない。私は確かに、この時を楽しんでいるのだから。
 やはり人間は非効率な生き物だ。それを実感した私は、そっと口角を上げた。

5/14/2023, 11:10:33 AM