「ご主人様、お時間です」
メイドが淡々と告げる。ベッドから起き上がり、メイドの顔を見る。感情のない冷めた目だ。朝から見るものではない。
「今日の予定は?」
着替えながら問うと、メイドは姿勢を崩さずに答えた。
「11時に倉橋様と商談、13時半に浅井様とご会食、それ以降のご予定は今のところございません」
「じゃあ乗馬の時間を取ってくれ。2時間でいい」
「かしこまりました。では16時からでいかがでしょうか」
「それでいい。それと、何度も言うがご主人様ではなく祐介だ」
俺の言葉に、表情一つ変えず頷く。
「かしこまりました」
本当に分かっているのだろうか。
感情のない冷めた目、淡々とした機械音声。アンドロイドの彼女は、なかなか呼び方までは直さない。
人間だった彼女は──アンドロイドの元になった彼女は、いつだって俺を「祐介様」と呼び、笑顔が素敵な人だった。俺を独りにしないと言ってくれていた。なのに。
「ご主人様、お時間です」
「分かっている。何度も言うな」
「申し訳ございません」
顔が同じなだけで全く違うメイドは、やはり無感情で頭を下げる動作をするだけだ。思わず舌打ちをする。
「申し訳ございません」
「もういい。遅れるから朝食を準備させろ」
「かしこまりました」
深く頭を下げ、メイドは部屋を出て行く。
開けたままになった扉に向かって、再び舌打ちをした。
「アンドロイドになってまで、1000年先も一緒にいるという約束を守られても、俺は嬉しくないんだよ」
2/3/2024, 11:44:36 AM