『視線の先には』
転校生としてやってきた彼女はちょっと変わり者ではあったけれど打ち解けてすぐに仲良くなれた。そのうちにクラスのあるひとりの男子を目で追いかけていることに気づいてお昼休みの屋上でそれとなく尋ねてみる。
「最近気になる人いるの?」
「えっ、うん。まぁわかるか〜」
「いつもよく見てるもんね」
菓子パンを頬張りながらえへへと笑う彼女はこう続ける。
「あの子、私のお父さんなんだよね」
「は、なん、えぇ?」
手に持った紙パックのミルクティーを呆然と握る私に彼女は転校してくる前は未来にいたことや、お父さんだという人はすでに故人となっていて、過去に影響を与えないという制約のついた期間限定のツアーでここに来ているということを説明してくれた。
「……つまり未来から来たと」
「そう」
「お父さんに会いたくて?」
「そうなの」
「ちなみに今何才?」
「17才」
手に持ったミルクティーをストローで吸う。ずいぶんとぬるく感じるいつもの味がこれは現実だよと教えてくれている。
「失礼なこと言うかもだけど言っていい?」
「とりあえず聞いたげる」
「私も同い年だけど、わざわざ昔に来てまでお父さんに会いに来るって、お父さん好きすぎじゃない?」
「それ未来のみんなからも言われた〜」
転校してきて仲良くなってからも変わり者だなと思っていたけど、未来でもそういう扱いの人のようだ。ちなみに小さい頃はお父さんと結婚したかったとのこと。
とはいえ、私はお父さんを亡くしたことはまだないし、今よりもっと若い時分にそんな経験をしたらこんな行動に出ることもあるのかもしれない。
午後からの授業でも彼女は未来のお父さんを見つめていて、そんな彼女を私も気になって見つめている。期間限定のツアーと言っていたけれど、居なくなるときはいつの間にか消えてしまうのだろうか。私と仲良くなったこともお互い忘れてしまうのだろうか。いろんなことを考えながら、彼女の横顔ばかりを見つめていた。
7/20/2024, 6:22:47 AM