令和7年4月24日
お題 「巡り逢い」
「まだ見ぬ、波濤」 作 碧海 空
1989年8月16日 午後
約束のフェリーのりば。
短大卒業してから、高校卒業してから、この場所で海内洋を見送ってから何度目の夏だろう。
平成元年の夏が静に暮れかけて、昨日まで隣にあったような十代の日々を少し遠くに感じた。
冬には23才を迎える之子。誰も口にはしないが、それぞれに十代の夏を遠くに感じ始める蒼い時、動き始める船に静な波濤が白く輝く。
桐子は人妻になり。
おたかは母校に帰り教師になり。
波乗り鮮やかな、おこまはバブル入行組のバリキャリ銀行員。
私って相変わらずだと、少し友が我より偉く見える日を迎える之子に。
「変わってなくて良かった、見た目はかなり変わったけど」と海内は言った。
「確かに、化粧少し上手くなったかも、昔はメンタムの薬用リップしか使わんかったけど笑 今じゃあ、これでもデパガやし」
「渋谷やろ?俺もたまに行くけど」
「一応なぁ、売上げトップなんよw」
「やっと、スクランブル交差点で迷子にならへんようになったけどなー」と、おこまが笑いながら会話に入ったが、おこまは何を変に気を回したか、大阪で一泊すると言い出し「用があるからー」とだけ言って笑っていた。おこまの悪戯好きは相変わらずだ。それでも明日からは仕事の之子と海内は、大阪から二人で新幹線で帰ることになった。
定刻通り 午後三時の新幹線に乗る、ホームまで、おこまは一緒でこれから大学時代の友人と会うのだと言う。
「まあ、ゆっくりねぇ」と、おこまに背中を押され、551の豚まんを買って新幹線に乗り込んだ。
「また、電話するわな〜」
笑う、おこまに手を振った。
新幹線が動き出し、席につくと海内が言った。
「相変わらず、人と別れる時は、サ・ヨ・ナ・ラは言わないぜ!なんやなw、バイバイも言わんのかぁ?」
「なんでよ、また会うんやからええやん」
「結構、センチメンタルやな、お前」と海内は笑った。
それから東京まで近況を話した。
海内が、なんとなくズルズルと大学時代から付き合っている年上の彼女のことを話し出した。之子の気安さのせいだろうか?之子は自分でも若干迷惑に感じるくらい、他人に気安さを感じさせるようで、聞いてもいない打ち明け話をよくされる、こいつもそんな感じか?と内心苦笑気味に海内の話を聞いていた、、ちょっと待て話しの流れから察すると、こいつその歳上の彼女と知り合ったのは私と被ってないか?と考えながら、まあ、バイト先の出版社のチーフだったというから嘸かし格好良く映ったのだろうと何故か直ぐ共感してしまう、共感力高めの之子なのであった。
「なんで、ワタシが?」と内心思いながらも海内の話を聞いていたが、高校時代と何ひとつ変わらないような、自分勝手な不真面目さといい加減な屈託のなさと素直さ寛容さ、凪の水面にキラキラ光る日差しを思わせる笑顔?
「うん?こいつ、単純なだけやん!」
最早、心の声はこいつ呼ばわりで、之子は過ごし、なごり雪も降る時を知ったのかも知れないなぁと、夏の日差しの中で遠い波濤のざわめきを聞いた。
つづく
葉桜に 呪い埋めたる 巡り逢い
独居房の浪人🌾🦜🌕️
巡り逢い 殺す夜桜 影ひとつ
月下不美人🌾🦜🌕️
ストーカー 夜桜の下 身を隠す
俳句甲子園より キッザニアクラブ宛🌾🦜🌕️
お題 「巡り逢い」
4/24/2025, 11:42:21 AM