G14

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 私の部屋で飲み会が行われていた。
 参加者は私と恋人の聡くんの二人。
 私から飲み会をしようと提案した。
 この飲み会の目的は二つ。

 一つ目は、聡くんに元気を出してもらうため。
 仕事がうまくいかず、怒られてしまったらしい。
 二つ目は、私たちの関係をもっと先に進める事。
 私たちが恋人となってから、もう一か月。
 私が臆病なせいで、なかなか進まなかったこの関係。
 お酒の力を借りて、これまで言えなかったことを言うのだ!

 そしてお酒はほどよく飲んだ。
 あとは言うだけ。
 聡くんに届け。
 私の熱い想い。


「私は王様だぞ。この紋所が目に入らぬか~」
「はい、はい」

 私の渾身のがギャグに受けなかったのか、聡くんは適当な相槌を打った。
 予想では笑い転げているはずなのだが、どうやら高度過ぎて伝わらなかったらしい。
 しかたない、次のギャグを考えるための燃料、もといお酒を飲む。

「純ちゃん、飲みすぎだよ。もうそれ以上はやめな」
「まだ飲むの~。聡くんが笑うまでやめない~」
 そう私には使命がある。
 聡くんを笑顔にしないといけないのに、未だ彼はずっとしかめっ面なのだ。
 

「純ちゃん、酒に強いって言ってたのに……
 ベロベロに酔ってるじゃん」
「なんてこと言うの~。私はシラフでーす」
「……酔っ払いはみんなそう言う」
 聡くんは酔っぱらっているのか、認識に異常がある。
 いや、逆に酒が足りないのかも!

「聡く~ん、お・さ・け、飲んでないでしょ。
 もっと飲もうZE」
「絡み癖もあるんだ……初めて知ったよ、ハハハ」
「!」
 聡くんが笑った!
 
「じゃあ、私、お酒飲むのやめるね~」
「ええ!?突然どうしたの?」
「聡くんが笑ってくれたから」
「全く意味が分からない」

 聡くんが笑顔になった。
 私はそのことで胸がいっぱいになる。
 笑ってくれたことで、この飲み会は半分成功した。
 目的はあと一つ。
 彼に愛を伝える。
 
「好き」
 お酒を飲んだからか、私の口から自然と愛の言葉がこぼれる。
「お酒が?」
 でも聡くんはニブチンなので、うまく伝わらなかったらしい。

「ううん、聡くんが好き。愛してる。世界中の誰よりも」
「う、うん」
 突然の愛の告白に、聡くんはドギマギしている。
 そして彼は姿勢を正し、私を見つめる。

「僕も純ちゃんの事が好き。世界中の誰よりも」
「嬉しい」
 聡くんが私の想いに応えてくれる。
 まるで夢のよう。
 彼は私にキスをしようと、顔を近づけてくる。

 だが彼の顔を見た時、胸に不快感を感じた。
 きっと夢から醒める前というのはこういう事を言うのだろう。
 幸せだった気分から、急速に私の中の冷静な部分が呼びこされる。
 ムリ。
 もう限界だ。
 私はすぐそこまで近づいていた彼を突き飛ばす。

 そして胸の不快感は、口の中にまで押し寄せて――


 🍺 🍺 🍺

「すいませんでした」
 私は彼に土下座して謝る。
「反省してるなら、お酒は控えてね」
「はい。すいませんでした」
「怒ってないから、顔を上げて」

 そう言いながら、彼は汚れ(オブラート)をタオルで拭きとっていた。
 あれだけ夢の中の様な幸福感に包まれていたのに、あっけない終わり……
 私の胸の不快感はきれいさっぱり無くなったが、代わりに後悔で胸がいっぱいだった。

 彼は怒っていないと言ったが、実際はどうなのだろう。
 まさか幻滅されたんじゃ……

「コレで綺麗になった、と。あとで洗濯機も回すことにして――」
 聡くんが急に私の方を向く。
「さっきの続けようか?」
 私達の夢は、まだ醒めないらしい。

3/21/2024, 9:53:07 AM