私の部屋で飲み会が行われていた。
参加者は私と恋人の聡くんの二人。
私から飲み会をしようと提案した。
この飲み会の目的は二つ。
一つ目は、聡くんに元気を出してもらうため。
仕事がうまくいかず、怒られてしまったらしい。
二つ目は、私たちの関係をもっと先に進める事。
私たちが恋人となってから、もう一か月。
私が臆病なせいで、なかなか進まなかったこの関係。
お酒の力を借りて、これまで言えなかったことを言うのだ!
そしてお酒はほどよく飲んだ。
あとは言うだけ。
聡くんに届け。
私の熱い想い。
「私は王様だぞ。この紋所が目に入らぬか~」
「はい、はい」
私の渾身のがギャグに受けなかったのか、聡くんは適当な相槌を打った。
予想では笑い転げているはずなのだが、どうやら高度過ぎて伝わらなかったらしい。
しかたない、次のギャグを考えるための燃料、もといお酒を飲む。
「純ちゃん、飲みすぎだよ。もうそれ以上はやめな」
「まだ飲むの~。聡くんが笑うまでやめない~」
そう私には使命がある。
聡くんを笑顔にしないといけないのに、未だ彼はずっとしかめっ面なのだ。
「純ちゃん、酒に強いって言ってたのに……
ベロベロに酔ってるじゃん」
「なんてこと言うの~。私はシラフでーす」
「……酔っ払いはみんなそう言う」
聡くんは酔っぱらっているのか、認識に異常がある。
いや、逆に酒が足りないのかも!
「聡く~ん、お・さ・け、飲んでないでしょ。
もっと飲もうZE」
「絡み癖もあるんだ……初めて知ったよ、ハハハ」
「!」
聡くんが笑った!
「じゃあ、私、お酒飲むのやめるね~」
「ええ!?突然どうしたの?」
「聡くんが笑ってくれたから」
「全く意味が分からない」
聡くんが笑顔になった。
私はそのことで胸がいっぱいになる。
笑ってくれたことで、この飲み会は半分成功した。
目的はあと一つ。
彼に愛を伝える。
「好き」
お酒を飲んだからか、私の口から自然と愛の言葉がこぼれる。
「お酒が?」
でも聡くんはニブチンなので、うまく伝わらなかったらしい。
「ううん、聡くんが好き。愛してる。世界中の誰よりも」
「う、うん」
突然の愛の告白に、聡くんはドギマギしている。
そして彼は姿勢を正し、私を見つめる。
「僕も純ちゃんの事が好き。世界中の誰よりも」
「嬉しい」
聡くんが私の想いに応えてくれる。
まるで夢のよう。
彼は私にキスをしようと、顔を近づけてくる。
だが彼の顔を見た時、胸に不快感を感じた。
きっと夢から醒める前というのはこういう事を言うのだろう。
幸せだった気分から、急速に私の中の冷静な部分が呼びこされる。
ムリ。
もう限界だ。
私はすぐそこまで近づいていた彼を突き飛ばす。
そして胸の不快感は、口の中にまで押し寄せて――
🍺 🍺 🍺
「すいませんでした」
私は彼に土下座して謝る。
「反省してるなら、お酒は控えてね」
「はい。すいませんでした」
「怒ってないから、顔を上げて」
そう言いながら、彼は汚れ(オブラート)をタオルで拭きとっていた。
あれだけ夢の中の様な幸福感に包まれていたのに、あっけない終わり……
私の胸の不快感はきれいさっぱり無くなったが、代わりに後悔で胸がいっぱいだった。
彼は怒っていないと言ったが、実際はどうなのだろう。
まさか幻滅されたんじゃ……
「コレで綺麗になった、と。あとで洗濯機も回すことにして――」
聡くんが急に私の方を向く。
「さっきの続けようか?」
私達の夢は、まだ醒めないらしい。
3/21/2024, 9:53:07 AM