駄作製造機

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【終わらせないで】

カツ、カツ、、

スチールの階段を一段一段のぼるたび、ローファーの靴音が宵闇に響く。

『はぁ、、はぁ、、』

一段と踏みしめてのぼるたび、運動不足か、興奮しているのか息が上がる。
暑くなりマスクを取った。マスクは夜風に巻き込まれて吹き飛んでいった。

『ふー、、綺麗。』

階段を登ってビルの屋上に着く。

『今日はオリオン座流星群か、、』

空を見上げれば、綺麗な星々が瞬き刹那に落ちていく。
二つ三つ四つ、、たくさんたくさん綺麗な星が落ちていき、私の瞳に光を映す。

『はあああぁ、、』

大きく息を吐き、屋上の緑芝生の上に思いっきり寝転がる。

背中がチクチクしててくすぐったいけれど、それよりも私は川水の様に流れていく星達に夢中になっていた。

三十分後。
そろそろ寒くなって来たな、、帰らないと。
でも、、もうちょっとだけ。

六十分後。
本格的に寒いなぁ。カーディガンじゃ足りない、、。
でも、、星は降り続けている。

『うぅ、、さむ、、』

嗚呼、、帰りたくないな。

『何で帰りたくないんだい?』

後ろから声が聞こえて、振り返る。

『やぁ。』

シルクハットを被った西洋風の男が私の後ろに三角座りをして空を見ていた。
何かのコスプレだろうか。

『、、誰?』
『ハハハッ、、やっぱりこの星の生物はみんな疑り深いねぇ。』

いや、問題は誰なのかじゃなくって、私の心を読んだことだ。

『僕には昔っから不思議な力があってね。心が読めんるんだよ。』
、、、、、、まぁ、綺麗な星に免じてそう思うことにしよう。

『、、帰りたくないのは、家が苦しいから。』

『難しい表現をするんだね。苦しいって、、どういう意味?』

『苦しいのは、お母さんが原因なんだ。生まれた時から完璧を求められて、テストだって、家事だって、自分のお小遣いだって管理されて、何でも完璧に完璧に、、それがとても苦しい。息ができない。』

一つこぼせば、二つ三つ。
ポロポロ言葉が溢れて、コスプレ男に吐き出していく。

『ふ〜ん、、それは辛いね。どうしたいの?家に帰ってもお母さんに完璧を求められて君は苦しいんでしょ?』
『うん。苦しい。私、、このままずっと、この星を見てたい。』

そう呟くと、体がフワリと浮かぶ。

シルクハットの男がいつのまにか真正面にきており、私の手を取る。
私の体が浮き、空中歩行している様になる。

『私、、浮いてる、、!』
『うん。そうだね。君を永遠の流れ星ショーに招待するよ。どう?』

妖艶に笑うシルクハットの男。
永遠。ずっとこの綺麗な星を見ていいの?
疲れか、星の綺麗さに感動してか、私はその提案がとても魅力的に見えた。

『Posso chiederti un favore?』

意味が通じたのか、シルクハットの男はうやうやしく私の手にキスをした。

『Ho capito.』

そう言いとうとうビルの外に飛び出す。
私は落下しながら美しすぎるオリオン座流星群を目に焼き付ける。

『永遠に、、この星が、、見れる』

グシャリ

ビルの下が騒がしいのを耳に入れながら、シルクハットの男はビルの屋上でタップダンスを優雅に踊る。

『永遠の星。とっても綺麗だねぇ。君の心は真っ黒だったけど、永遠のショーを見ている君の心は明るいね。』

シルクハットの男はくつくつと笑い、背中からはやした翼をはためかせ、上空に飛び上がった。

『アハハッ、、、僕の名前はルシファー。光を掲げる者だよ。』

もう声も聞こえないであろう女の子に向かって自己紹介をするルシファー。
彼女の終わらせたくない願いは、くしくも彼女が死ぬことによって実現した。

11/28/2023, 10:19:24 AM