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「うぅー寒い…でも……」
冬至も過ぎ新年になったというのに更に寒くなっていくこの気温を恨みつつ、のそのそとコタツから這い出る。
…そう(と急に言われても分からないだろうが)、1生に1度しかない成人式──もとい二十歳の集いの準備をするためにだ。
「…そういえばあいつも来るのか。」
あいつ、とは保育園の頃からの幼馴染である佐原なつみのことである。ちなみに現在は違う大学に通っている。
「2年ぶりか…久しぶりだな」
なつみとの思い出は基本、なつみが俺にべたべた付きまとってそれを俺が適当にあしらうというものばかりだった。まぁ、それでもなんだかんだ幼馴染。面倒とは思いつつも勿論嫌いではないので、小中高3年間の修学旅行では毎回同じ班だったり(無理やり)ほぼ毎日共に登下校したり(無理やりその2)はしていたのだが。
「…って、そろそろ行かないと!?」
ちょっと回想に浸りすぎたか……じゃなくて!!!急がないと!!
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「よぉ〜翔、久しぶり〜」
「おぉっ!樹じゃ〜んおっひさー!」
「お前高校のときよりでかくなったか?」
「そうか?…でもたしかに目線の高低差が大きくなった気がするな笑」
「うっせぇよww」
昔からの友達、昔と変わらない会話。まるで過去に戻った気分になる。そんな風にまたもや思い出に浸っていた時間は
「あ!樹だぁぁー!!でけぇ!!!」
と、相変わらずの爆音で遮断された。
「久しぶりだな、なつみ」
「ね〜!てかまじで樹でかすぎない?前はこーんなだったのにね〜」
「そんな小さかったことねぇよ」
なつみはそういいつつ以前の如く抱きついてきた。着付けも髪の毛崩れるぞ。
「こうしてると懐かしいねぇ〜」
そういいながらなつみは、今までと同じように、でも今までよりも少しだけ大人びたような笑顔をこちらに向ける。
「…お前なんか前より可愛くなったか?前より…こう……?」
「きゃー!今までそんなこと言ってくれなかったのに!離れた期間のおかげかな?」
「うっせぇよ…」
でも、たしかに今までそういうことは一度も言ったことがなかった。思春期の恥ずかしさもあったが、幼馴染だったこともあってあまり意識をしていなかった気がする。そう思うとたしかに離れた期間がそうさせたのかもしれない。
「でもなんでだろ〜。うーん…」
「…あ!彼氏が出来たからかも!!」
…えっ?
「カ、カレシ…?」
「ふっはははww樹のそんな顔初めて見たww」
「だ、だって…」
そういえばなつみも、勿論のことながら俺も、高校生まで一回も恋人なんてできていなかった。
まぁ、当たり前だ。2人ともお互いとずっと一緒にいるのだ。付け入る隙もなかったのだろう。
だから、当然今も恋人なんていないと思っていた。なんなら今日あっちから抱きついてきたし。
「あ、あいちゃんだ〜!樹またねぇ〜!!」
「あっちょっ……」
…なんなのだろうか、この喪失感は。なつみのことを恋愛対象だなんて思っていなかったはずだ。というか別に今も思ってはいない。
「娘を取られた、みたいな感情になってるのか…?」
いや、だとしたらとんだ厄介人間だ。ただの幼馴染だってのにこんな感情を抱くなんて迷惑すぎるだろ。じゃあ何故……
「自分がなつみちゃんの中の1番じゃ無くなったからじゃないか?」
「…え?てか翔どこいってたんだよ。」
「お前がなつみちゃんと話してたから二人で話せるようにどっか行ってたの!こんなこと言わせんなよ!!」
「別にそんなことしなくていいのに…じゃなくて。なんて言った?」
「んぁ?だから、自分がなつみちゃんの中の1番じゃ無くなったからじゃない?って」
「1番……」
そう言われると腑に落ちた。確かになつみ、他の友達よりも俺の方が一緒にいる時間長かったし…。
「まっ、子供くせぇ嫉妬みたいなもんだろ!」
「えぇ…なんかそんな風にまとめられると、俺、すごくめんどくさいやつじゃない?」
「ん〜、まっ!そんなこともあるだろ!気にせず次行こうぜ!!」
「…それもそうだな。」
執着していたのは、なつみより俺の方だったのかもしれない。

➹20歳

1/11/2026, 8:10:23 AM