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恋空と星の猫

夜空に流れ星が走った瞬間、彼女の腕の中に、小さな黒猫が落ちてきた。
「…あなた、どこから来たの?」
猫は金色の瞳で彼女を見上げると、ふわりと声がした。

「僕は“星座の猫”。願いを届けるために空から落ちてきたんだ」

「え…? しゃべった…?」
彼女は戸惑いながらも、震える猫を抱きしめる。
外は冷たい夜風。見上げれば、星々が瞬いている。
あの日から、彼がいなくなってしまって、何度も見上げた空だ。

「私…叶えたい願いなんて、もうないの」

「本当? 心の奥にあるのに、気づいてないだけじゃない?」

黒猫はしなやかに尾を揺らすと、空へ向かってぴょんと跳ねた。
その瞬間、世界が反転したかのように、星空が足元に広がる。
彼女は気がつけば、星座の道を歩いていた。

一番輝く星のそばに、彼が立っていた。
懐かしい笑顔で、そっと手を伸ばす。

「もう泣かないで。
僕はここで、ずっと君を見ている」

頬を伝う涙が光になって、空に溶けていく。
彼女の手に残ったのは、小さな星の欠片と、
黒猫のあたたかなぬくもりだった。

「さあ、目を開けて」

次の瞬間、彼女は元の夜の街に戻っていた。
腕の中の黒猫は、もうただの猫の姿になっている。
だけど瞳の奥で、星がひとつ瞬いた気がした。

その日から、彼女は夜空を見上げるたびに思う。
“恋空”は終わらない。
あの星のどこかで、彼が見守っていると。

7/6/2025, 10:58:36 AM