わをん

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『狭い部屋』(Skyrim)

狭い部屋にあるのは簡素な寝台と下水に続く小さな排水溝に鉄格子の扉。高いところに明かり採りの窓がひとつ。中に囚えられている男は村のこどもを襲い、立ち尽くしていたところを捕縛されたのだという。ここ数日監視を続けているが、大人しく項垂れている目の前の姿からは凶悪な犯罪者というイメージがまったく湧いてこない。時折ぶつぶつと何か言っているときに聞き取れるのは命を奪ったことへの謝罪、そして、誰かへの恨み言だった。なにか事情があるのだろうと思いはしたが、看守は犯罪者に耳を貸してはならないというのが決まり事であり、処遇を決めるのは私たちではない。見て見ぬふりを続け、首長からの指示を待つのみだった。
真夜中に明かり採りの窓から月の光が差している。今夜は満月だった。男は眠りもせずに一心に光を見つめており、その目は爛々と輝いている。ざわざわとした胸騒ぎを覚えるが男は暴れるでもなく空を見つめているだけなのだ。こちらも監視を続けるほかない。外からは獣の遠吠えが聞こえてくる。記憶の隅からウェアウルフの伝承が蘇り、満月の夜に伝説めいた怪物が目を覚ましては人を襲う、などという子供騙しの書物の一文が思い浮かんだ。
その直後、獣のけたたましい咆哮が響き渡った。他の看守たちは顔を見合わせると外へ続く扉へと駆けていったが、その出どころがあの男からであるとは誰も気づいていないようだった。私の視線に気づいた男が光る目をこちらに向けている。その気迫は獣そのものであり、殺意であった。
「近づかないでくれ、頼む」
鉄格子越しに男が呟いた。絞り出すような声に苦悩が満ち満ちていた。

6/5/2024, 3:22:08 AM