みみかゆい

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帰り道、薄暗い路地を歩いていると、
前方の街灯が照らすやわらかな光の下に、長い髪の女性がぽつんと1人で立っていた。

物悲しげに俯く女性の右手には、大きな黒いビニール袋が握られており、
中身が何かは分からないが、
詰め込んだ中身が浮き出すほど、袋は異様に膨らんでいた。

垂直に垂れた髪の影に隠れて、女性の顔は見えなかったが、
女性は1人で何やらひそひそと話しているようで、
時折、濡れた雑巾をひたと当てられたような冷たく乾いた笑い声を溢した。

気味が悪なった私は、さり気無く女性から視線を外すと、
街灯に近づくにつれ足取りを強めた。

私が街灯の光を踏むと、何故か女性の声はひたと止まり、
荒々しい息遣いと共に不気味な視線を感じるようになった。

生きた心地がしない。

首を絞めらるような息の詰まる感覚が、錯乱した私の足取りを止めてしまう。
相変わらず女性を見ぬように顔を逸らしてはいるが、向こうは明らかにこちらに見つめているようだった。

どうして私は足を止めてしまったのか、

ここで何事も無かったように歩き出しても、私の不自然な挙動に女性は不信感を抱くだろう。

「…あの」

糸屑のような細く冷たい声が鼓膜を通り抜け、堪らず体を跳ね上げる。

恐怖の余り私の体は金縛りのように動かなくなってしまう。
辛うじて首を捻り女性の方を振り向くと、

「……あの…ゴミ捨て場はどちらでしょうか」

10/16/2023, 2:07:46 PM