シオン

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(ユートピアに来る前の権力者)
 今日は七月七日、いわゆる七夕の日だった。
 織姫と彦星が年に一回だけ会える日。なんか雨でもカササギが橋作ってるとか、そもそも天の上だから雨降ろうが関係ないとか、そんな話が出回っているが、ともかく今日は雲ひとつない綺麗な夜空が広がっていた。
 都会とは流石に言えないけれど、かといって凄い田舎というわけでもないボクの家からは到底天の川は観測できず、なんというかあまりムードとかは存在しないような気がしてた。
 笹飾りを家に飾って短冊に願い事を書く、なんてことをやるようにお母様から言われて、渋々ペンを取る。
 書きたいことなんて沢山あって、でも何にも書けない。『この生活から逃げ出したい』とか『お母様が殴ってくるのをやめて欲しい』とか、そんなことを書けば怒られるのは目に見えていて。
 だから何を書けばいいのかな、なんて迷っていた。
 普通の家の子はそうじゃないらしい。『○○が欲しい』とか『家族みんなが健康でありますように』とかそんなことを書いて家族でニコニコ笑い合うって。
 ボクはそんなことできない。お母様が健康であって欲しい、なんて思えなくなってしまったから。むしろ何か怪我をしたり病気をしたりして、ボクのことを傷つけられなくなってほしいなんて願ってしまっているから。…………これも、書けない。
 雲ひとつない夜空の上で、織姫と彦星は一年に一度だけあっているのだろうか。ボクと違って幸せな日々を過ごしているのだろう。
 …………羨ましい。
「書けたの〜?」
 お母様のそんな声が聞こえて、あわてて短冊に『世界が平和になりますように』なんていう在り来りな思ってもいない願い事を書いてお母様のところへと向かった

7/7/2024, 2:38:18 PM