Morris

Open App

大けな声を出いてしもうた。けんど、主は命に代えても守るべき存在や。

「吉行を選んで良かったよ」

顔に熱が集まって、どこからとものう桜の花弁が落ちてきた。

「少しの間、目を瞑ってくれる?うん、ありがとう。ちょっと待ってて」

怖いけんど、主の言うことなら従うほかない。みぞうも長い闇の中で、微かな吐息と布が擦れる音がした。

「お待たせ。もう開けてもいいよ」

目を開けたわしの前に立っちょったのは、素顔の主やった。背に月明かりを受けて、髪と目の白さが際立っちょって、声を出すことを忘れてしもうた。

「顔に出るタイプなのはわかっていたけど、そこまでとはね……」
「いや、あんまりにも綺麗やったき……もっとよう見してくれ」

頬に手を添え、左目を隠す前髪を梳く。
一見すると白金に見えるが、間近で見れば薄く榛色が滲んでいる。

「面白い目やねや」
「そう言ってくれて嬉しいよ。誰かに素顔を見せるなんていつぶりかな……」
「おんしは政府の役人の前でもそれを外さざったもんな」
「あはは……いや、ちょっと怖くて」
「そうか。その、わし以外に顔を見しちゃあせんのか?」
「うん。でも、ずっと前は外していたけど……知ってる人はもういないさ」

その言葉を聞いた瞬間、やちもない感情が湧いて出る──この素顔を、他の誰ぞに見してほしゅうない。

「大丈夫だよ。目元は出すことになるけど、こうやって見せるのは吉行だけだよ」
「げに?」
「うん。分霊とはいえ、君も神様の一柱でしょ?」

主は薄う笑みを浮かべた。
この気持ちを見透かすように。

「戻ろうか。ココアを淹れてあげるから、暖かくして寝よう」
「あぁ……」

風吹けば飛ばされそうな彼女なのに、わしの手を引く姿が頼もしゅう思えた。

2024/01/25・安心と不安

1/26/2024, 9:59:52 AM