目を閉じれば、
ひとつ前の夏がまぶたの裏に浮かぶ。
それは記憶というには淡すぎて、
夢というには湿っている。
路地裏のアスファルトが、
空の色を映していた。
陽炎は逃げ水のように揺れ、
誰かの影をからかうように踊っていた。
私は白いサンダルで、誰かを待っていた。
多分、もう来ないことを知っていながら。
氷の溶けたジュースのグラスが、
テーブルの上に水たまりをつくる。
その水たまりの奥に、知らない風景が見えた。
なぜか、懐かしかった。
なぜか、少しだけ、怖かった。
夕立が来ると知っていて、
それでも洗濯物を取り込まなかった。
私のなかの誰かが、
わざと忘れたみたいに。
そうして夏が通り過ぎる度、
私の影は少しずつ、
焦げついたように短くなっていく。
夏は過ぎる。
だけど、置いていってはくれない
7/14/2025, 12:17:07 PM