目を覚ました。カーテンの隙間から射しこむ朝の光にちょっと顔をしかめる。
枕元のデジタル時計は、午前7時40分を示していた。重たい瞼をこすりながら、まだ意識のおぼつかない頭で考える。仕事は休み。出かける予定も特にないし、二度寝してもいい。
けれども、さっきから室内に漂う甘美な香りを無視できない程度には腹が減っている。頭のなかの天秤が睡眠欲より食欲のほうに傾いたので、俺は上体をのそりと起こした。
ベッドから這い出して、フローリングに降り立つ。足裏にひやりとした感触が伝わって、早くもシーツに残った温もりが恋しくなった。
自室を出てキッチンをのぞくと、同居人と目が合った。寝起きの掠れ声で「おはよ」と言ったら、同じようなトーンの「おはよ」が返ってきた。
キッチンを満たす、パンの焼ける匂い。同居人は真剣なまなざしで、トースターの中の食パンの焼き加減を見極めている。
「もういいんじゃね?」という俺に、同居人はパンを凝視したまま「もうちょい」と答えた。
俺はなんとなく手を伸ばして、そのほっぺたをつまんだ。トースターをのぞきこんでいたせいか、ほんのりあたたかい。同居人は不思議そうな顔でこちらを見たが、特に抵抗することもなく、黙って頬をむにむにされ続けている。
トーストの匂いと、指先の体温。何でもない朝が、このままずっと続けばいい。そんなことをぼんやり思っていたら、トースターがチーンと鳴った。
【テーマ:ずっとこのまま】
1/12/2026, 12:54:54 PM