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 甘い生クリームのように積もった雪。夢のように幻想的な光景は澄み切った陽射しが照り返すたびにきらきらと輝いて砂糖みたいだ。

 粉雪をふわりとのせた風は頬を撫でる。夢から醒める冷たさに「ひぇっ」と情けない声を漏らした。正直なところ、寒さにはとても弱いし、すぐにでも部屋の中央を独占するこたつに向かって蜻蛉返りしたい。それでも魔法にかかったように心が踊って、目に染みる果てのない雪面を待ち望んでしまうのだ。

 ベンチに腰をかけると片手に握っていたビニール袋をガサガサと漁る。目当てのものを見つけると悪どく笑ってしまった。ホカホカと甘い香りを漂わせて頬を撫でる。コンビニで勢い任せに買い込んだ餡饅だ。緩みきった欲望は待ちきれずに、ぱくりと大きく齧り付いた。

 ほわっと春が訪れたような甘さに胸がじんと染み渡る。優しい餡が冷えた身体を暖かくして、気付きばもう一個、とビニール袋を手に取っていた。

 特別な今だけの時間がゆっくりと流れていく。背中を預けてぼんやりと空を見上げた。重い灰色の雲が流れていく。雪の気配を遠くまで運んでいくのだろう。それなら、まだこの楽しみを何度でも味わうことができる。温まった白い吐息が、雪とともに流されていくのを眺めながら花が咲いたようにまた笑った。



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2/18/2023, 9:10:28 AM