君と一緒に見た景色が忘れられない。
霜が降りた、とても寒い朝だった。
君はいつも通りもう起きて、ジョギングに行く準備をしていた。
「あなたも行く?」と微笑む彼女に「行く」と答えて外に出て、一瞬で後悔した。
寒い、なんてもんじゃない。凍そうだ。
しかも、日頃から走ってる彼女に着いていくだけで精一杯。
「たまには違うルートで行こうかな」
そう言って長い長い階段を駆け上がって行く彼女を、少し恨めしく思った。
「ほら、早くおいでよ」
30段以上も先から振り返り、ヒィヒィ呻く僕に発破をかける。
ああ、君はなんて残酷なんだ。少しは僕のことも考えてくれ。
足はガクガクするけれど、その頃にはもう寒さは消えていた。
彼女の背を追いかけて、階段を登り切る。
彼女はとっくにてっぺんにたどり着き、高台から景色を眺めていた。
呼吸を感じられるくらい傍に立ち、彼女の瞳に映る景色を僕も見る。
痛いほど澄んだ空気が、遠くにそびえる山の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。その下には僕たちの住む街がキラキラと朝焼けに照らされ、眩しいほどだ。
「きれいでしょ? あなたにも見せたかったんだ」
白い息を澄んだ空に溶かしながら、そう言ってはにかむ彼女の方がよっぽどきれいだった。なんてことは言わなかったけれど。
あの日の景色と、彼女の横顔。
今でも忘れられない僕の思い出。
いつかまた、君と見られる日を夢見て、僕は今日も走り出す。
もうそんな日が来ないことは僕が一番知っているのにね。
1/6/2026, 4:51:23 PM