冬も近い、十二月の中頃、
今年は、暖冬で地方もなかなか雪が降らず、過ごしやすい気候が続いている。
長野、浅間山の低地帯も同様である。
今朝は雨が降ったため、突き上げる山脈に霧の海ができていた。木々には朝露が滴り、冬とは思えぬほどの暖かさである。
その山の中、ある木々の集団があった。
まっすぐに伸びた枝の端々に、齧られ、皮を垂れる実が一つ、二つ、三つと並んでいる。
不意にぽとりと木の実が落ちると、下にあった落ち葉の山が小さな渦を作って散りぢりになった。かつての小山は崩れ去って、一匹のヤマネが残った。
薄灰色の毛、背中に筆で塗られたような一本の直線が頭から尾にかけて続いている。
彼は背中を曲げ、尾で顔を覆って眠っていた。
時が経ち、葉の隙間から陽光が差し込んでくる頃に彼は起き上がった。
しばらくは呆然とし、動きは緩慢であったが、果実に気づくと憚ることなく齧りついた。そうして彼は体の熱を取り戻すと、は背後の木へ飛びついて、森の中へ姿を消した。
粉雪の降る。一月の暮れ、
雪が辺りを覆いはじめ、木々は装いを失って、代わりに白く染まっていた。
その森を一匹、走るヤマネの姿があった。
彼は枝から枝を飛び移り、何度もあたりを見渡し、食糧を求めていた。
しかし、既に冬は深まり、葉も実もどこにも見当たらないのである。
仮に何層にも積もった雪道を、当てもなく掘ろうとも、既に痩せていた彼には些か厳しいことであった。
とうとう彼は動きを止め、枝の頂点に座ると、ただ呆然と空を眺めた。
そこに太陽はなく、鬱蒼とした雲ばかり、
無情な雪が彼の顔に注がれるのだった。
彼は木を降り、生きるために駆け出した。
一心不乱、何度も雪を穿ち、食べ物を探した。それはまさしく、灯火が消える間際の蝋燭の如く、命の懸命たるあがきであった。
いつしか雪は吹雪となった。
彼は辛うじて見つけた
ドングリを口に目一杯頬張ったまま、木に張りついていた。
ますます強くなる暴風は、彼を無情にも吹き上げた。寸前、彼は祈りを込めるように、体を折れそうなほどに丸まった。
轟々とした雪や枝すら吹き上げる竜巻の中へと彼の体は消えていった。
朝が来た。吹雪は止み、陽が空に浮かんでいる。影がしばらくそれを見つめていたが、
木から落ちた雪の音に驚き、すっかり樹洞に隠れてしまった。
陽の当たる雪原は、淡く反射して輝いていた。
『雪を待つ』
12/16/2023, 7:38:40 AM