ゆき

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___僕は泣かない 。だって約束したんだ 。


初めて出会ったのは、小さな喫茶店 。
元々そこの従業員だった君は 、肩まで綺麗に切りそろえられた髪を靡かせながら接客してたね 。
僕はあまりの美しさに目を奪われた 。
それだけじゃなくて 、余りにも綺麗な瞳で僕を見つめるから初めて恋に落ちる音を僕は聞いたんだ 。
恋が結ばれる日は僕が思ってたよりも長くて 、ただの常連の僕なんか君の視界に入れても恋愛対象にはならないな、って嘆いてた時に君は笑って言ったんだ 。
いつも通りの言葉なのに、ときめいたのはなんでなろう 。
「 おかわり 、いりますか ? 」
いや、その後の言葉に僕は驚いたのかもしれない 。
「 私が上がるまで 、珈琲ご馳走させてください 。」
ああ、やっと実ったってその時初めて気づいたんだ 。
今でも君はなんで僕に恋したのか教えてくれなかったね 。
そこから月日が過ぎるのは早かった 、春が来て、夏に海を見て、秋には美味しものを食べて 、冬にはベッドの中で語り明かして 。
5度目の夏が来る時に、僕たちの天使にも出会えた 。
天使の名前に僕も君も悩みに悩んだね 。
人からしたら在り来りな名前だったのかもしれないけど、僕たちにとってはとても大事で素晴らしいものだったんだ 。
それからまた季節が過ぎて、ついに僕たちの元を天使が世界へと飛び立った時だった 。
君に病が襲いかかったんだ 、それは急で残酷で僕は泣くことしか出来なかった 。慰めるのも何か違う気がして、ただ泣いてる僕に君は言ったね 。
「 私が死んだ時はどうか泣かないで 、笑顔で見送って 。」
「 約束よ 。」
その声は酷く震えていて、僕は何度も頷きながら君の分も未来の僕の分も沢山泣いた 。
そして、ついにその時が来てしまった 。
僕は泣かない 、約束したんだ 。そう、約束を 。
ボロボロと泣く大きくなった我が子を抱きしめながら宙を仰ぐ 。ついに君が天使になってしまったんだと実感してしまった 。
ツーンと鼻が痛くなって慌てて顔を隠す 。
今の僕を見て 、君は約束を破ったのね 。と笑うだろうか 。きっとそうだろう 、これからの人生君がいないなんて僕は耐え切れるだろうか 。
いや、君と初めて会った時 。君が綺麗な髪を靡かせ僕に注文を聞きに来た時 。君が我が子を大切に抱き締めてた横顔 。全部、全部僕の中で生きている 。
いつか、誰からも君がいた事を忘れられたとしても僕がいる限りは終わりはしないんだ 。
キュッと唇を噛み 、歪な笑顔で君が眠る棺へと歩み寄った 。下手くそでも僕なりに君との約束を守ったよ 。
空からこんな僕を見守っててください 。

fin

3/17/2024, 3:32:57 PM