聞こえますか?
あの、遠い足音。
ゆっくりと近付いてくる、不穏な足音。
砂利を踏むような、アスファルトを擦るような。
それは着実にあなたへと向かってきている。
目的はあなたなんだ。
早く逃げた方がいい。
まだまだ遠いと高を括っていた。
まだしばらくは捕まることもないと。
だって、走れるし、闘える。
負ける気もしなかった。
だけど、それは思いのほか早く、抵抗を許さぬ強さでこの身に迫ってきていた。
まずは、足元に。そして、脳に忍び込む。
気付けば、「老い」はすぐそこに。
今でも抗ってはいるが、もうかなり侵食されている。
歩くことが少しシンドくなってきた。
芸能人の名前が思い出せない。
まずはそんなところから。
もはやそれは、遠い未来の話ではない。
恐れおののけ。
これは、何人たりとも逃れることの出来ない運命。
この世に生を受けたその時から、課せられた悲しい運命。
だから、まだそれが遠い足音であるうちに、やるべきことをやっておけ。
恐れおののきながらも、耳を塞がずにその音を聞き漏らすことなく、いつか追いつかれた時には、「待っていたよ」と受け入れて。
10/2/2025, 9:54:03 PM