ㅤ勧められたハンバーガーもポテトも、私はすぐに食べてしまった。冷蔵庫を勝手に開けて、ボトルウォーターを手にソファに戻る。やっと二人きりになれたのに、私たちまだキスもしてない。
ㅤ狭い部屋にキーボードを叩く音が響く。丸まった背中。パソコンを見つめる横顔。
ㅤまだ終わんない?
ㅤ今やる必要ある?
ㅤ何十回も出かかった言葉を私はまたグッとこらえた。そんなこと言っても無駄だって、この数日でとっくに学習している。
ㅤ顕微鏡でしか見えないミクロの細菌の記録なんかより、もっと観察するべきことがほかにあるんじゃないのかなぁ。
ㅤリターンキーを押した指が動きを止めた。ふー、っと息をついたところを見計らって私は呟く。
「あー、どーしても計算合わない……なんで?」
ㅤわざとらしく広げたノートを見つめて、出来るだけ情けなく聞こえるように語尾を震わせる。
「どしたの?ㅤなんの計算?」
ㅤやっとこっちを見てくれたあなたを、チョイチョイと手招きする。
ㅤ隣に座った膝に触れたら、ごくりと唾を飲む音がした。私の不満が一息に消えていく。
ㅤ白衣の腕をそっと掴んで自分の腰に添わせると、泳ぐあなたの瞳を下からまっすぐ覗き込んだ。
ㅤ顕微鏡の向こうの生物を「可愛い!」だの「cute!」だのと、あなたはよく褒めるけど。やっぱり私の方がずっとずっと可愛いでしょ?
ㅤ覚悟してよね。cuteには、ずる賢いって意味もあるみたいなんだから!
『cute!』『記録』
2/27/2025, 11:46:38 AM