Ryu

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あなたが今、この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。
そうしてくれと、病院の先生に頼みました。
今度の手術は、成功する確率が五分五分だとか。
もう、あなたがお見舞いに来てくれる日もなく、きっとこのまま生死を分かつことになると思い、ペンを取りました。

あなたに出会って二年。
たくさんの思い出を作りましたね。
去年の秋に行った温泉旅行、あの紅葉を二人で見た時の感動は今でも忘れません。
今年の春には USJ で、子供のようにはしゃいでいたあなたの笑顔を思い出します。
そして夏、予定していたグアム旅行、キャンセルすることになってしまってごめんなさい。
あなたと二人、南の島で泳ぎたかったな。

私が入院した当初、あなたは早急に籍を入れたいと言ってくれましたね。
単なる恋人の関係では、コロナの影響で見舞いもままならないからと。
ずっとそばにいたいと言ってくれたのに、私がそれを拒絶してしまった。
自分がいなくなる未来を想像してしまったから。
あなたには、その時、自由でいて欲しかったから。

いよいよ、手術の日がやって来ます。
あなたには、そのことも伝えないようにお願いしておきました。
何も気にせずに、その日を過ごして欲しいから。
あの、USJ で見せてくれた笑顔のままで、いつもと変わらない日常を過ごしていて欲しいから。

たった二年のお付き合いでした。
たった二年間でも、あなたの彼女でいられたことを、何よりも幸せだったと感じています。
だからこそ、あなたの心に残る最後の私の姿を、悲しいだけのものにして欲しくない。
…分かってくれますか?こんな私のワガママを。

あなたがこれを読む時に、私はもういない。
卑怯だと思われても仕方ありませんね。
こんな私と出会ってしまったことを、あなたは後悔するかもしれないけど、あなたに会えて、私は毎日が幸せでした。
一生分の幸せをもらえたから、もう何も心残りはありません。

…嘘です。
心残りだらけです。
もっとたくさん話して、たくさん手をつないで、ハグして、キスしたかった。
あなたと結婚して、子供を作って、幸せな家庭を築きたかった。
グアム旅行だって、リベンジしたかったな。
…でももう、目を閉じて、すべてを遠ざけます。
今の私には、それしか出来ないから。

それでは、お別れをさせてください。
さようなら。ありがとう。
いつまでも、お元気で。

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「ねえママ、こんなお手紙見つけちゃった。これ、ママが書いたの?」
娘が無邪気に私のもとに走ってきて、封筒に入った手紙を差し出した。
「…え、読んだの?」
「読んだけど、なんだかよく分かんなかった。誰か、死んじゃったの?」
「あー、うん、大丈夫だったみたいだよ。手術が成功したみたい」
「そーなんだ!良かったね!ママ」

えーと、この手紙は早々に処分すべきだったのかな。
隠された手紙も、いつか誰かが見つけ出してしまう。
でもまあ、最近は残業や飲み会で遅くなってばかりの夫に愛想を尽かさないためにも、こんな手紙は役に立つのかもしれないな。
あの頃の気持ちを思い出して、今生きていることに感謝して、この幸せな家庭を守っていこう。

そして近いうちに、子供も連れて三人でのグアム旅行を計画しようと思う。

2/2/2025, 1:39:38 PM