シオン

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(現パロ)
 夏だった。
 正確には暦の上とやらでは夏ではなく、ギリギリ春とかなのかもしれないが、ともかく夏みたいな暑さだった。
 快適な温度であるユートピアと違い、現代社会というものはことごとく快適な温度というものが存在しない、いつもいつも暑すぎるか寒すぎるかの二択だった。
「アイス食べたい…………」
「僕もだよ」
 クーラーの壊れた教室でボクの前に座っている少女がそう声を上げた。
 彼女の現代社会での名前はさておき、彼女はユートピアでは『権力者』を名乗っていた少女だった。かく言う僕も、ユートピアでは『演奏者』を名乗っていたが。
 つまり僕と彼女は前世からの友人である。
 が、しかし。彼女は前世の記憶を失っていた。一方の僕は完璧に覚えてるどころか、ユートピアで彼女を手に入れられなかった悔しさを今世の彼女にぶつけることに決めていた。
 だから、覚えていようとなかろうと、一旦自分のものにしようとしてる最中である。
 今の所、その計画は良好で、こうして彼女の隣で親しげに話すことができている。区分でいう所の親友に値するのだろうか。それを恋人まで上げられるのもせいぜい時間の問題だろう。
「学校にアイスの自販機を置くべきでは?」
「僕もそう思うが、現実的に考えるのは無理だろう」
「え〜」
 不満をもらす彼女の顔はあの頃と変わらず可愛くて、あの頃よりも好意的な表情を向けてくれる彼女にもっと気持ちが溢れそうになった。
「…………顔赤いよ? 熱中症?」
「……熱中症ではないが、暑いからね」
「水分とかとってね〜」
 ……溢れそうでなく、溢れてたみたいだが、まぁなんと都合のいい言い訳が存在するのか。全くもっていいところはないが、たまには役に立つ季節だな、なんて僕は思った。

6/28/2024, 3:18:29 PM