Machi

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【白い吐息】

寒い星空の下、地味で冴えないビルから8時間の労働を終えて出る。
特に楽しみも何も無く、暗い気持ちで俯いてビルに並ぶ花壇を横目に歩く。
前に人の気配がして、ぶつかると思ってはっと足を止めた。
「あ、すいませ…」
その人の。見慣れた金縁の腕時計を見て、顔を上げる。
「…迎えに来ちゃった」
白い肌に寒さで赤く染まった鼻。癖のある顔立ち。薄く整った形の口から、白い吐息が空気に溶けた。
「あ……なんで来たの?今日、仕事じゃ…」
「可愛い彼女さんに会いたくて。」
にこっと笑って即答するその人は、自分の首に巻いていたマフラーを私に優しく巻きつけた。
「…ありがとう」
「うん、行こっか。」
私の生温い手がコートのポケットで温められた手に包まれ、思わず安心して息が漏れる。
「あ、息白い」
「みんなそうだよ」
軽口を言いながら、クリスマスが近づいて活気だった街を歩く。
数分前よりも少し、明るい気分になった気がした。

12/7/2025, 10:15:55 AM