いしか

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時を告げる。
そんなロマンチックなものじゃないけれど、
確かに、私のスマホは鳴った。

彼の着信音で。

〜♪~♫〜♫〜♪

「は〜い。」
私は眠い目をこすりながら、着信の鳴ったスマホを手に取った。
「あはは、相変わらず眠そうだな…、おはよう、明里。よく眠れた?」

「うーん……、眠れたよ。」
「ふっ、それは良かった」
私と彼は、遠距離恋愛中、それも、日本と海外。時差があるから、彼の電話は朝。
けれど、電話してほしいと頼んだのは私。

いつもじゃなくて良いけれど、たまに電話をかけて私の目覚まし時計になって欲しい。
そう、彼に伝えた。

「じゃあ、もう大丈夫そうだし、切ろうか?」
「えっ?もう切っちゃう?今忙しいの?」
「ううん。忙しくないよ、こっちは夜で、もう家に着いてるし、でも、明里はこれから色々準備があるだろ?邪魔したくないから」

彼は、こうやっていつも気を使ってくれる。
彼も、明里は気を使ってくれるという。
似た者同士なのかもしれない。

「……じゃあ、少し、10分で良いから、私とお話し、してくれる?」
「ふっ、良いよ。俺も話したいし、明里の時間が大丈夫なら、お話ししよう。」

そんなこんなで、私達は10分のお喋りを楽しんだ。色々な、他愛のない話。
周りからは、よく続いてるねって言われる。
そうなのか?と、私は思う。
彼にそう言ったら、彼も、そうなのか?と言ってきた。
本当に似たもの同士だ。

「それじゃあ、またね、今度は、こっちからかけるから…、」
「…………ねえ、明里」
「うん?なあに?」
「俺、もう少しでこっちに居る任期が終わるじゃん?」
「うん、そうだね。」
「それで、さ、あの、さ……、」
彼が口籠る。何か言いたそうだ。

「なあに?お別れの話?」
「馬鹿っ!!違うよっ!冗談言うなっ!!」
「あはは、ごめん。ごめん。
………だって口籠ってるんだもん」


「………明里、」
「……なあに?」


「俺が帰国したら、俺と、結婚して」

一瞬、これは夢か、と思ったけれど、どうしょうもなく現実で、私の心がはねた。
驚きと、嬉しさで。

「もちろん。私と、結婚して 佑(たすく)」

スマホ越しから佑の笑った、ホッとした声が聞こえた。佑が帰国してきたら、改めて私もちゃんと言おう。そう、思った。

10分の電話はゆうに越え、私は若干の遅刻をした。
上司にちょっと注意されたものの、私はどこか上の空。

佑が帰国するまでもう少し。

「愛してるよー!佑!!」
誰も居ない会社の屋上で私は一人、叫んだのだった。

9/7/2023, 3:30:29 AM