「一輪のコスモス」
リードを引くクロ。いつもの朝の散歩。
ブロック塀の角に、一本だけ、コスモス。
薄いピンク。ほとんど透明な色。
誰に見られるでもなく、という顔で、そこにいる。
クロは気付かないふりして、通り過ぎようとする。
私が立ち止まる。
「ちょっと待って」
たったひとりで、風に揺れている。
誰かを喜ばせるためじゃない。
愛されるためでもない。
ただ、咲いてる。
クロが、早く行こう、と鼻を鳴らす。
それを見て、私も、これでいいんだ、と思う。
今日を生きる。それだけで。
10/10/2025, 8:44:25 PM