白眼野 りゅー

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 夢見る少女と、恋する少女の違いってなんだろう。

 テレビの向こうに映る俳優にまるで夢でも見ているみたいなとろんとした目を向ける君の横顔を眺め、ふとそんなことを思った。


【夢見る少女のように見ないで】


「……君はさ、もしもその俳優さんと結婚できるってなったらどうするの?」
「なあに、急に。ずいぶん夢のある話題だね」

 彼女にとってこれが「夢のある話題」にカテゴライズされるという当たり前の事実にすら妬いてしまう。それほど僕の度量は狭くて、情けないなあと時折思う。

「しないんじゃない? 多分だけど」

 テレビから目を離さず、君はあっけらかんとそう言った。

「え? な、なんで? 君って結婚願望なかったっけ」

 結構焦る。僕は割とあるんだけど。

「や、あるけど、この人とは別にいいかなって」

 僕が知っている限り、この俳優は日本でトップレベルのイケメンで、彼女にとって一番好きな俳優だったはずだ。それがこうもあっさり……となると、どうしても期待に近い感情が沸き上がってしまう。

「それは、僕と結婚する予定だから他の男は眼中にないみたいな……?」
「んー、まあそれもなくはないけど」
「なくはないくらいの感じなんだ……」
「夢は、叶ったらそこで終わっちゃうじゃん。私はこの人にずっと夢を見ていたい。だから、結婚はしたくない」

 「ずっと」という言葉の強い響きを、脳内で味わう。「ずっと」を求めてしまうその気持ちには、僕にも覚えがあった。

「僕とも……?」
「ん?」
「僕とも、結婚したらそこで終わっちゃうの?」

 意図せず震えてしまった声の余韻を吹き飛ばすように、君の軽やかな笑い声が響いた。

「馬鹿だなあ」

 と笑う彼女は、僕が画面の向こうの俳優に嫉妬していたためにこんな話題を持ち出したということに、今更気づいたらしかった。

「恋が叶ったら、愛になるんだよ」

6/8/2025, 5:30:58 AM