『君と僕との間には強い絆があるものだと思ってた。』
ピコンっと音を立てて画面上に現れたメッセージには死ぬほど胡散臭い言葉が書かれていた。
「浮気したくせに、どの口が言うんだよ。」
あまりの言葉の気持ち悪さに、私は思わず心の内を言葉に出してしまっていた。
2ヶ月前、付き合って一年になる彼氏が、知らない女の人と一緒にいるところを見た。
それも、よりによって、休憩1時間2000円と書かれた看板を掲げた建物に入っていくのを。
それを私は今、LINE上で問いつめていた。
自分の浮気を認めさせて、それを理由にその浮気野郎と別れるために。
別れ話をきりだすと、証拠の写真までこっちは持ってるって言うのにも関わらず、画面越しの馬鹿は言い訳がましく、クサイことを言い始めた。
『誤解だよ』
『君に浮気なんて疑われるなんて思わなかった』
『そこまで君に寂しい思いをさせてたならごめん、謝るよ』
『でも、僕がそんなことすると思われてたのには傷つくよ』
『せめて、こんなLINEなんかじゃなくてきちんと話をしよう』
お前みたいなやつに、面と向かって話すことはないと、怒りに任せて返信しそうになったがすんでのところでそれは飲み込んだ。
別に、私はホテルに入っていった彼の行動だけを見て浮気と確信づけた訳では無い。
約2ヶ月近くかけて証拠と浮気相手の把握までして、きちんと黒だと裏付けてからの言動なのだ。
言い逃れしようたって無駄だし、させるつもりは毛頭無かった。
その旨を話したところ、相手から返ってきた言葉が冒頭の台詞だ。
めんどくさい。
その一言に尽きる。
交際当初は私の行動を監視するがごとく過干渉してきたくせに、落ち着いてきたかと思えば浮気とは器用なものだ。
所詮、お前が言っている絆は、世間一般的な清く美しいものとは似つかないものだ。
独占欲にまみれた手綱で相手を自分の欲を満たすために振り回して、飽きたら器用な事に、浮気相手までつくるとは。
ただの束縛男だと見くびって油断してしまっていた。
失念だ。
まぁ、初めての彼だと浮かれていた私がいた事も事実だが、その事実を入れたとて、冒頭のセリフには解せないものがある。
絆とかいう大層な言葉に自分の汚い欲を置き換えて私を繋ぎ止めようとしたことはかなり重罪だ。
私は怒りのままに、携帯のキーボードをフリックする指を早めた。
長文のメッセージにはこれからの事の運びとお前の言い分は何一つ受け入れないことを暗に書き入れて、別れることを断言した。
別れが決まった後の私の行動は早かった。
部屋にあるアイツ関連のものを全てダンボールに詰め込んで着払いでアイツの部屋に送った。
別れた後、しつこく何通か立て続けに通知が入ったが、それは全て無視して、最後には相手のSNSを全てブロックして関係を絶った。
――そして見てみろ、私との間に絆があると抜かして見せた癖に数ヶ月もすると、完全に私たちの関係は他人同士になっている。
正に馬鹿馬鹿しい、二度とあんな言葉遣いをしないで欲しいと心から思った。
まぁ、本来絆という意味には呪縛や束縛の意味もあるらしいではあるから間違ってはいないのだろうけど、束縛といった意味でもアイツは私を逃がしてしまっているのだから結局、結果的にアイツは間違っている。
どちらの意味でも有言実行は成せていない。だから、これぐらいの悪態は見逃して欲しい。
そしてどうか、多くの人には絆という言葉を誰かを縛り付けるためには使って欲しくない、アホらしいではあるが、なんとなく、そう思った。
―――その言葉が持つべき意味
お題【絆】
3/6/2024, 5:10:30 PM