未完成の佳作

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夢を見た。
悲しいような、嬉しいような。
目が覚めると忘れてしまうけど。

心は簡単に壊れる精密機械だ。
なかなか治せない。
治っても不具合が出ては、停止したり
誤作動をおこす。
治せるのは自分次第で、治す方法を
見つけなければ、いつまでたっても
そのままだ。

いつか治るだろう。そう、いつか。
治ったら、たくさん友達と遊んで
恋人をつくって。
いつか、そんな未来がくるだろう。

僕はいつも夢を見る。
心が壊れていない安定した未来を。

「はは、無理だろ、ひとりで治すのは」

病院食堂の角。黙々と食べていた昼食。
急に話しかけてきた。
どうやら日記を見られていたらしい。
無表情で相手を見る。
「そりゃー、自分次第だけどさ。
協力者は必要じゃん」
彼はじっと、僕の目を見て話す。
僕の方が先に目をそらす。
話しかけるな、というかのように。
彼はどこからか椅子を引っ張ってきて
一緒に食べ出す。(なんだよ、こいつ)
彼も黙々と食べ始める。

その日から何故か。
同じ時間で同じ席で向かい合って
黙々と昼食を食べるようになった。
名前は知らないし、知ろうとも思わない。
彼も聞いてこない。
ただ、203号室なのはわかった。

桜が散りまた、咲こうとしている季節。
お互い何も言わないまま
時間が過ぎていく。
「なぁ」驚いた。手を止めて彼を見る。
「どうだった?」なにがだ。
顔に出ていたのか彼がふっと力を抜く。
「誰かと食べるご飯は旨いだろ」
なんだこいつ。
まぁ、正直嫌な気はしなかった。
茶碗を見ながらぼそりと「まぁ」とだけ。
「ふーん、よかった」なんだそりゃ。
また、彼を見る。まっすぐ僕を見ていた。
なんだよ。
「俺も旨かったよ。ありがと。」
そーかよ。

次の日から彼は食堂には来なくなった。
なんだよ。別に。居なくても別に。
寂しい?いやいや、なんだこれ。
気になるだけだ。なぜ来ないのか。
203号室を覗こうと立ち上がる昼下がり。

そっと扉を開ける。
やましいことは何一つないのに。
なんだこれ。なんだこの感情は。
          
              夢見る、心

4/16/2024, 11:06:48 AM