わをん

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『遠くの街へ』

もうすぐ街に着く。お母さんとよく買い物に来ていた街で僕は今日お母さんとさよならをする。
僕の家にはきょうだいが6人いて、僕が一番年上で、昨日は僕の誕生日だった。お母さんとお父さんとが突然に話し始めた内容をあまりわかっていなかったけれど、わかって頂戴と言われたのをうんと頷いたからそうなってしまったようだ。
待ち合わせの場所にはぶっきらぼうなおじさんが立っており、こちらをじろじろと見てなにかの書類を確認すると重たげな革袋をお母さんに手渡した。ここに来るまでずっと泣いていたお母さんはその時にようやく泣きやんで、僕を抱きしめて僕の手を離し僕を見送った。
「これからどこへ行くんですか」
「……遠くの街だよ」
「僕、この街から先へ行ったことがないんです」
楽しみだなぁとつぶやくとおじさんはふ、と笑って歩き出す。おじさんの歩幅は大きく速く、付いていくのが大変だった。

2/29/2024, 3:12:50 AM