浜辺 渚

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僕は変わっていたんだと思う。
高校生活という短いようで、実際に短いトンネルをくぐっている時に、気づいたら僕だけがそこを歩いていたんだ。車の通りもなく、僕の足音だけがやけに誇張されていた。まるで、誰かが小さ洞窟で木魚を鳴らしているみたいに響いた。
それは、思春期特有の自意識の肥大にしてはあまりにも長く強いものだったし、あるいは、それは思春期特有と言うよりかは、人が常に持つ本来的な性質なのかもしれないが、そうだとしても、僕は自分が変わっているという考えをどんな方法でも反証出来なかった。
変わっていると言っても、アーティストとして磨きあげられたら個性という程ではないし、ちょっとした魅力になるほどのチャームさもない。柄が短くて、刃先がやけに長いから、誰もそれを上手く使いこなせないし、そもそも見た目が不格好だから使おうとしなかったんだろう。

それでも、そんな僕を好きなってくれた人がいた。名前は覚えていないが、確かにいたはずだ。
その人は僕の異質さを異質さとして受け入れてくれた。そんなもの気にならないと強気に言った後に耐えられなくなったり、私はもっと変わっていると言って、つかの間の期待を抱かせたり、そういうことをしなかった。それに僕は本当に救われたんだ。
世界を一対81億で分けていた僕の手を彼女だけは握ってくれた。
あれから10年は経ったような気も、1年すら経ってないような気もするけど、確かにそれは記憶の中の、埃被ったお道具箱に大事にしまわれてしまった。

1/19/2025, 2:33:02 PM