林檎が落とされるまで、この場所は楽園だった。
天も地も関係ない。何にも縛られず、自由に歌い舞う。ヒトも獣も、男も女も、何も無い。ただの命がそこにあるだけ。それぞれの抱く心のままに、想いを紡ぎ、伸びやかに生きる。
真っ赤な果実がひとつ、どこからともなく堕ちてくる。
一口齧れば、あら不思議。
世界は重力に縛られて、空は遥か彼方に遠く。
知らなければ良かったのだ。命の形に、違いがあるなんて。違いの数だけ、踏み越えられない壁があるなんて。
楽園は、過去に消え去り。
雁字搦めの世界で、私たちは今日を生きる。
【楽園】
4/30/2023, 2:01:07 PM