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ーどうすればよかったのだろうか

俺は落ち着くために窓を開け、ベランダに出た。
持っていた煙草の箱から白い煙草を一本取り出す。彼女の好きな銘柄だ。
後ろポケットからライターを取り出し、煙草の先に火を付ける。
胸の高さの塀に肘を降ろして、大きく息を吸う。
ふーっと吐いた煙はゆっくりと真夏の夜空に上がっていく。
水を吸った赤いシャツは、べっとり肌に張り付いている。少し不快を感じ、煙草を持ち替え肌から浮かすが、隨分水分を吸っているからか、手から離すと直ぐに肌に張り付く。何度か肌から離してみるが、それでも肌に張り付くので、俺は諦め、再び煙草を口に咥える。
大きく吐き出す息を眺めながら、彼女のことを考える。
付き合ったときのこと、旅行したときのこと、初めて体を重ねたときのこと、喧嘩したときのこと、仲直りしたときのこと、頭の中で映画のフィルムを回すように何度も何度も思い返す。
もう居なくなった彼女のことを思い、俺は再び息を吸う。

ー本当にどうすればよかったんだろ

いくら楽しい思い出に縋っても、最後の彼女の歪んだ顔は頭からは離れない。
小さくなった吸い殻を指で挟んで軽く弾いた。
赤く染まった白い煙草は、弧を描いて落下する。
振り返ると、横たわる歪んだ顔の彼女と目があった。

11/21/2023, 1:24:32 PM