#君は今
おはよう。
寝ぼけて放った言葉は誰にも拾われない。1人で寝るには大きすぎるダブルベッド。隣半分には皺のないシーツが広がる。かすむ目を擦りながらトースターに入れた食パンは1枚分。
あぁ、そうか君はもうここにはいないのか。
3年付き合った彼女。同棲もしていた。2ヶ月前に別れてからというもの、失恋の傷は時間が解決するとは名ばかりで、海の底に沈んだかのような生活をしている。
別れた理由は些細な喧嘩。喧嘩の内容など思い出したくもないが、俺が悪かった。自分の非を謝ることができずに別れ、彼女は出ていってしまった。
君は今、何をしているか。他の男と幸せな時を過ごしているのだろうか。ここに居なくとも、別の場所で上手くいっているのであればいいと思っている自分がいる。こんなにも立ち直れずにいるのに、可笑しな話だ。
赤字で記念日が書かれたカレンダー、2人の写真が入ったフォトフレーム。彼女がいたときのまま片付けられていない部屋は、喪失感を煽る。
「ごめんの一言すら言えないのか。馬鹿だな、俺は」
吐いた言葉は空気の一部となった。
チンッというトースターの無機質な音でハッとする。少々焦げかけてしまった食パンの香りだけが漂っていることに気がついた。君が毎朝飲んでいたココアの香りは、もうしなかった。
2/27/2024, 9:26:31 AM