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 冬に備えて春物、夏物を仕舞い込んだのに夏に似た陽気が俺たちに襲いかかる。七分袖を肘まで上げた君はカレンダーを横にしたり自ら傾いたり、残り少ないはずのページを捲っては首を捻っていた。
「もう11月だよね?」
「暦上はね。季節はまだ冬になりたくないらしい」
「あんなに酷暑だったのにまた夏はやだなぁ…。何もかもぬるい~」
 換気で窓を開けた君はそのままベランダへ。
「あ、お天気雨…!」
 呼ばれてベランダに出れば生暖かい風が頬を撫でた。これからまた夏に戻ってしまってもおかしくはなさそうで、鼻先に当たった雨も冷たくはなく温度があるように思えた。例えるなら柔らかい雨だ。
「狐の嫁入りかな?それなら寒いより暖かい方がいいよね」
「お祝いに虹が出るかもしれないね」
「見てみたいかも」
 叩きつけるような雨音はなく跳ねた雨粒は軽やかな音を奏でた。「可愛い演奏だね」と口にして耳を澄ます君の想像力の逞しさにいつも笑みが溢れてしまう。不満を言いつつ面白いことへ頭を切り替える君といて飽きることはないなと常々思い、空を見上げた。
 1ヶ所だけやけに明るい。本当に祝い事がありそうな、そんな予感を残していた。

11/6/2023, 11:54:06 PM