夕方のチャイムが鳴り、みんな帰っていく。
「帰らないのー?」
「大丈夫。迎えが来るから」
「ふーん。じゃあまた明日ね」
手を振り、元気に走っていく後姿を見送った後、私は一人公園のブランコに乗ってじっとしていた。
温かい家。待っている両親。美味しいご飯。眠りに就いたらまた明日、楽しい一日が始まるんだろう。
私は持っていない。……羨ましい。でも、どれだけ羨んだって、私はそれを手に入れられない。ないものねだりだとわかっている。私は、独りだ。
「あ、いたー!」
「何やってんですか。帰りますよ!」
ただぼーっと地面を見つめていたら、元気よく声を掛けられた。
顔を上げると、よく見知った姿があった。
「また遊んでたんですか?」
「もう暗くなりますよ。帰りましょう。僕らの家に」
そう手を差し伸べてくる。
ちゃんと私を迎えに来てくれた。
温かいものが胸に広がっていく。
「……ねぇ、私達って家族なのかな?」
そう問い掛けてしまい、はっとする。
もし、これで家族じゃないと言われてしまったら――
「当たり前でしょ!」
「僕らはそう思っていますけど」
「…………そっか」
嬉しくなって、思わず顔が綻ぶ。
「さぁ、神社に帰りましょう。神様」
「うん、ありがとう。狛犬達」
私の手を引いていく家族。まるで両親のように。
普通の家ではないけれど、私しか持っていない大切なもの達だ。
『ないものねだり』
3/26/2024, 11:00:41 PM