よあけ。

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:桜散る


「不幸でいてくれてよかった」


桜は散るから美しいのだと。人は死ぬから良いのだと。

そうかもしれない。桜は満開が美しいと思っていたし、人は死なないほうが良いと思っていたが。

散る前に見ようと人は桜に集まる。散れば見向きもしない。花見は聞けど葉見は聞かない。

人の死は創作において使い勝手がいい。安易に衝撃を与えられるし感動させることができる優れもの。何より人が死ぬストーリーは売れる。

そうか。

「不幸でいてくれてよかった」

地獄みたいな場所で生きてきたから今のお前がここにいる。お前をお前たらしめる重要な要素。痛み、苦しみ、恐れ、孤独。一つでも欠けていたらお前に興味を示さなかっただろう。お前が不幸でいたからこうして出会うことができた。お前が不幸でいてくれてよかった。ありがとう、不幸でいてくれて。

人が好むもの、感動するもの、心動かされるもの、興味を示すもの、そういった類のものは実に“自分勝手”らしい。

振り幅が大きければ大きい方が感情は動く。桜も、死も、そうだ。

残酷さや不幸があるから慈愛や幸福を感じ取られる。

なら、そうだ、やはり、お前が不幸でいてくれてよかった。この幸せはお前の不幸で成り立っている。

4/17/2024, 8:13:41 PM