未知亜

Open App

ㅤ私と典子は取り留めもないことをかれこれ一時間くらい話していだ。小中とずっと一緒にいるのに、話しても話しても話題は尽きることがなかった。
「なんかさ、大晦日より今日のほうが、一年終わる~って感じしない?」
ㅤ典子の声が少し間延びしはじめた。そろそろ眠くなっているのかもしれない。
ㅤ言われて思い出した。今日は三月三十一日、年度末ってやつだった。春休みは宿題もないし毎日が日曜日だし、日付の感覚も薄れてしまっていたらしい。
ㅤ自分たちがというよりは、周りの環境の変化が、年を追うごとに大きくなっていく気がする。私たちは、明日から中三だ。
「いよいよ受験生か。実感ないなあ」
ㅤ私がぼやくと、典子もうんざりした声を出す。
「うちはなんか親の方がうるさい感じ。逆に萎える」
「典子は、私立目指すんだっけ?」
「うん、ひとまずは。さっさと内定もらえたら安心だから単願推薦にしろ、って親は言うんだけど。夏の学校見学の時点で、ほぼ確らしいよ」
ㅤ一学期の内心次第なんだよなぁ~、英語がなぁ~、と典子が大きく息を吐きながら言う。
「ゆかりは公立でしょ?ㅤあんま会えなくなっちゃうかねえ」
ㅤ典子が呟く。さして残念そうでもない響きに私は上手く返事が出来ず、変な間が空いてしまった。
「ゆかり?ㅤどした?ㅤ親きちゃった?」
「あ、ごめん……そう、親が!ㅤそろそろ寝ろって!ㅤせっかくの春休みなのに」
ㅤ典子の無意識の助け舟に、私は勢いよく乗っかって誤魔化した。
「そっか。じゃ、またね!ㅤ明日も喋ろ?」
「うん、おやすみ。またね!」

ㅤメッセージアプリを閉じて、私はため息をつく。
ㅤ典子は多分、なんだかんだと内申をクリアして、第一志望の私立に行くだろう。やりたいことが明確なのだから、志望校に入るのがどう考えてもいちばんいい選択なのだ。
ㅤそれはつまり、典子と違う学校になるという現実まで一年を切ったということで。さっきそう自覚したら、猛烈に寂しくなってしまったのだ。
ㅤこれまでは、「またね!」って別れても、なんの約束もしてなくても、すぐにまた学校で会えた。だけど学校が変わったら?ㅤ毎日顔を合わせる子の方が居心地が良かったら?
「……寝よ」
ㅤとりま明日も通話するんだ。卒業してもずっと「またね!」って言い合って、すぐに会う約束を取り付けるんだ。
ㅤ気の早い決意を抱えて充電コードにスマホを差すと、私はベッドに潜り部屋の明かりを落とした。



『またね!』

3/31/2025, 4:11:47 PM