川柳えむ

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 あの憧れた美しい鳥を籠の中に閉じこめた。
 美しい声で鳴いていたはずの鳥は、いつからか騒音に変わっていた。
 それがあまりに煩くて、僕は耳を塞いだ。
 鳥はそこで飾られているだけでいい。ただおとなしく、愛らしい声でたまに歌ってくれるだけでいい。
 そうして、籠の中に閉じ込めた鳥は、いつしか空を飛べなくなってた。昔は空を自由に飛んでいた鳥は、もう自由じゃなくなっていた。
 でも、それでいい。
 籠の中で、僕だけに美しい姿を見せていればいいんだ。

 そう思っていたのに。
 目を離した隙に、鳥は消えていた。籠から飛び出して、いなくなってしまった。
 静かになった部屋で、僕は今になって気付く。
 僕がその翼を奪っていたんだと。あのまるで訴えるような鳴き声も僕が出させていたんだと。あのどこか悲しそうな、寂しそうな顔も。
 籠から飛び立った鳥は再び自由を取り戻した。あの憧れた鳥本来の姿を思い出したように。

 ――でも。
 お飾りの翼で構わないけれどね。煩い鳥なんていらない。美しく僕の為だけに歌ってくれる鳥でいい。
 君に自由なんて必要ない。僕だけの鳥で良かったんだ。

 仕方ないと、鳥籠を手にして立ち上がる。
 さぁ、新しい鳥を探しに行こう。


『鳥かご』

7/25/2023, 8:56:36 PM