回顧録

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「桜、散ってもうたな」
「へ?……あぁ、昨日の大雨でほとんどいかれてもうたな」

いきなり声をかけられて素っ頓狂な声が出た。
俺に対しての言葉なのかも定かでは無いが、
俺と違い独り言を言うタイプでもない。


「……なんやねん、ニヤニヤして」
「いんやぁ、別に?あんたにも桜を愛でる情緒があるんやなぁ思て」
「俺も大人になってもうたってことやな」
「なんでちょっと嫌そうやねんな」

俺からするとずっとあんたは子どもで、お兄ちゃんだった。
永遠のピーターパン。見た目もやけど、性格も変わらない。

「ガキの頃は動かんもん見て何がおもろいねんって思ってたけどなぁ、ちょっと切ななんもん」

「「なんでやろなぁ……」…ちょお、被らせに来んなやお前!」
「いややってあんた!フリがむちゃくちゃやもん!どこに接続してんねん!」
「いやでもあれですよ、桜が散ると寂しくなるのはほんまですよ。いつかは散るもんやけど雨風とか理不尽やんか。もうちょっと気ぃつこたってもええのになぁって」

ご自慢の唇をむにと突き出すと、お気に入りのコーヒーショップの一番大きいサイズのブラックを飲んだ。
そういうとこは変わったのかもしれへんな。かなり遠回しだとしても、この人は弱音を吐けるようになった。

「桜の花から葉桜なるだけやん。切り倒されたわけとちゃうやろ?また来年の今頃になったら大輪の花咲かせてくれるやんか。次咲かせるために散るねん、次の出会いのための別れや。必要な過程やがな」

実際は病気にかかる可能性もあり、来年拝めるかは微妙なところではあるが、今は必要な情報では無い。

「相変わらずポジティブやなお前は」
「そこが唯一のええとこやからな」
「なんでそこだけそないネガティブやねん、いっぱいあるわ!」

自分の事のように顔を赤くして、ムキになる。
でも、結局照れ屋やから言うてくれはせえへんねん。
嗚呼やっぱり変わらない。

『桜散る』

(咲いても散っても桜は桜、君は君)


作者の自我コーナー
いつもの。
なんでやろなぁ……桜見ると切ななんねん、です。
自分のことになると卑屈になる彼を全力で否定するあの人が好きです。輪廻と一蓮托生という裏テーマ。

4/18/2024, 7:07:31 AM