No.318『まって』
大事な人たちはみんな僕を置いていった。
両親も初恋の人も、そして唯一の肉親となった弟も。
もういないと分かっているのに心のどこかにある強い願望が自分に幻覚を見せてくる。
もうこれ以上、大切な人を失いたくない。
だから上からの命令を無視して彼を探した。
それが功を奏し、彼を見つけたが、いつもの日常には戻れなかった。
彼は目を覚まさず、彼女は辞職し、僕は異動となった。
※ ※ ※
やっと戻った日常。だがそれもまた一瞬で、また僕の大切な人たちは僕を置いていこうとする。
まって、僕を置いていくな…!!
身を殺して仁を成す。
…だから僕は自分の身を賭して、彼らの元へと向かった。
※ ※ ※
今度こそ僕は大切な人を守れた。
ボロボロの幼馴染たちを眺めて思わず笑みをこぼす。
「なに笑ってんだよ」
「どうしたの?」
「知恩報恩。君たちとの出会いに僕は心から感謝していますよ」
「はあ?」
「??」
意味が分からないという表情を浮かべる2人に笑いかけ、僕はこの気持ちを噛み締めた。
5/19/2025, 9:59:28 AM