珍しく、もう何百回に一回あるかないかレベルに珍しく、風が吹いていた。
生えている花が風に吹かれてゆらゆらと動いている。
そんな様子を見てると、花が今にも動き出しそうなそんな感情が少しだけ生まれた。生きている、ということを実感させられたような、そんな感情も。
実際『生きている』と言えるものはこの世界では花だけでそれ以外の全てが死んでいる、と言うのもあれだけど、時が止まっているこの世界で『生きている』とは言い難い。でも花は昼も夜もないこの世界なのに、唯一枯れたりしおれたりしてしまう。だから水を上げなくては死んでしまうのだ。
日課⋯⋯とは言えないけど、大体通った時に水をあげるようにしている。
日付とか時間とかそういうものがないから、まぁ大体目安を測りながら。
だから本当にいいのか悪いのか、効果はあるのかないのか全く定かじゃないけれど、なんだか水を定期的にあげてるほうが元気に見える気がして、だからきっと効果はあるんだろう、多分。
全部に水をあげ終えた時、音楽が聞こえてきた。演奏者くんが弾くピアノのメロディが。
なんだか風にのって聞こえてくるみたいだな、なんて思いながら、近くのベンチに座って目を瞑る。
彼の演奏はいつも違うけど、今日の演奏はとても楽しげに聴こえた。きっと、彼も風が吹いて変化が生まれたことに少しだけ嬉しさを感じているのだろう。
この世界はずっとずっと不変なわけじゃない、いつか変わるんだと、そう思えるのだろう。
4/29/2024, 3:31:55 PM