「見て、綺麗な貝殻!」
帽子の下に弾けるような笑顔を輝かせ、君は僕を振り向いた。
「持って帰ろうかな?!」
「いいんじゃない?」
裸足になった彼女に付き合って、僕も靴を脱いだ。靴下を靴に丸めて突っ込んで、彼女と同じように視線を下に向ける。
目が慣れるにつれて、白く大きい貝殻がたくさん浜辺に落ちていることが見えてくる。
「これ、みんな欲しがるよね!お土産にしようか?!」
「ああ…。」
それはどうかな。と僕は思った。都会の狭い箱に押し込められた現代人は、大量の貝殻をかざるスペースなんて、持ってないだろう。
僕は、言葉を濁したまま、サクサクと音を立てて、乾いた浜辺を歩いた。
そのとき、見慣れない材質の丸い石が足に当たった。かすかな透明感がある、薄緑の石だ。いや、もしかしたら、ガラスが摩耗したものかもしれない。
僕はかがみこんで、石を手に取り、太陽に透かした。よく見ると、その石には、見慣れない文字が刻印されている。
「これ、何語だろう?」
僕の声に、君は足を砂まみれにしながら、こちらに歩いてきた。手には、たくさんの白い貝殻を抱えたままだ。
しかし次の瞬間、彼女は手にした貝殻を放り投げた。そして、僕の手から石を奪い取ると、小さく叫んだ。
「これ…。神代文字じゃない?」
「神代文字?!」
【貝殻】
9/5/2023, 10:12:36 AM