『また会いましょう』
突然ですが。私はもうすぐ、この世を去ります。死神さんが、私に残りの寿命を教えてくれたのです。ファンタジーみたいな話ですが、本当です。事実、私の後ろには、黒いローブを身に纏った死神さんがいます。
「いやぁー。人間界って、毎日面白い事ばかりで飽きないねぇー」
私が想像していたのは、骸骨の顔に不気味な笑い、鋭い鎌を持った、闇属性が似合う死神さんでした。しかし、私の前に現れたのは、ツヤツヤもちもちのお肌に太陽みたいな笑顔、そして鎌を持っていないという――明らかに光属性と言う方が正しい死神さんだったのです。
「死神さん。私の寿命は、いつまででしたっけ」
「寿命ー? えっとねー、今夜十時までだよー」
のんきに私の寿命を教えてくれる死神さん。初めて出会った時もこのゆるさで私に余命宣告をしており、そのおかげなのか、死ぬ恐怖を全く感じませんでした。命が消えるというのに、するりと受容しているのです。
「ねぇねぇ。今夜には天に行くけど、やり残した事とかないー?」
「ないですね。もう、後悔はありません」
「そうなんだぁー。僕が今まで見てきた人達、皆そう言うんだよねぇ。なんでだろー?」
無自覚なのか、死神さんはそう言いました。もし死神さんが暗かったら、私の死に対する受け入れ方が大きく変わった事でしょう。
「……おっと、一旦戻らなきゃー。死神も色々忙しいんだよぉー」
時計を見てから、笑顔で死神事情を話す死神さん。楽しそうな死神さんが、私にはとても可愛らしく見えております。
「それじゃあねぇ。また会いましょうー」
「……ええ。また会いましょう」
死神さんは私から離れる時、必ず「また会いましょう」と言います。死神さんいわく、お迎えの人の様子を細かく見る為に毎日顔を出すからとの事でした。私は、死神さんの「また会いましょう」という台詞に、優しいあたたかみを感じているのです。
――夜の九時五十五分。私は、自宅のベッドの上でぼんやりしていました。残り五分で、私は命が消えます。
「こーんばんはー」
ひょっこりと現れたのは、死神さん。お迎えに来てくれたようです。
「そろそろ、僕と一緒に行こっかー」
死神さんに手を引っ張られ、魂の私は天に向かいます。さっきまで身体が重たかったのに、今はとても身軽になりました。
「死神さん」
「んー? なーにー?」
「……また、会いましょう」
天に昇ればもう会えないと分かっているのに、私は優しくてあたたかみのある言葉を口にしました。そうすれば、死神さんは一瞬目を丸くしてから、すぐに満面の笑みを浮かべました。
「うんっ! また、会いましょうー!」
全く変わらない、死神さんの優しい笑顔。次の人生は、死神さんみたいなあたたかい人に会いたいです――。
11/14/2024, 6:26:56 AM