「なんか不思議だけどさ、『もう夢であってくれー』って思うやつほど現実で、『コレ現実だったらいいのに』って思うやつほど夢なんだよな」
「うん、まあ。確かに」
感情と事象の酷いすれ違いを、時に人は「理不尽」とか「不条理」とか、自分より大きな何かのせいにして呼称する。ふいに彼が口にした言葉は、確かに的を射ていた。――これも、一種の「理不尽」か。「不条理」か。
「例えばさ、もし夢と現実の境界を溶かす薬とか、夢と現実をひっくり返す機械があったら、君は使うか?」
一つ目の例えは、夢と現実が同じ平面上に存在していることになる。夢と現実を行き来する際、人はまるで反復横跳びのような動きをするということだ。
二つ目の例えは、夢と現実がオセロのように表裏一体の関係性になっていることになる。何がトリガーとなって、夢と現実がひっくり返るのか。そして、「表」と「裏」はそれぞれどちらに当てはまるのか、当てはまらないのか。
そこまで考えを巡らせて、僕はやっと口を開く。
「僕は、夢を脳内における仮想空間の『作り物』とは思えない。夢の中でも人は生きていて、人生を積み重ねている――だからつまり、薬も機械も必要ないってことさ」
「じゃあ、俺がヒーローになって爆モテしてた夢も、『本当にあった出来事』ってことでオーケー?」
「ソレはなんか癪に障るけど。まあそうなんだろうな」
そもそも何が夢か現実かなんて、誰にも分からない。
どっちの世界を信じるとか、そういうスケールの小さい話じゃない。もしかすると、世界はサイコロよりも多い多面体で出来ているかもしれないじゃないか。
夢でも現実でもなく、たくさんの『出来事』たちがランダムに転じて僕たちを惑わしていたとしたら。
それはまさに『alea iacta est (賽は投げられた)』。
【夢と現実】2024/12/04
12/5/2024, 5:05:08 AM