夜汽杏奈

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「透明な水」

         夜汽杏奈

優しく風に靡いた髪
薄紫色の小花達は揺れながら歌う
遠くに見える白い山々は青空と広がり
君の笑顔の先に
透き通る川と草原が続いていた

永遠に忘れないであろう、
僕の記憶の欠片
全てが満たされていた、未来
透明な水の中にいた二人
君の笑顔は宝石のごとく反射する光
愛と呼ばれるもの以外
そこに何も無くていい

昨日も今日も明日も
喜怒哀楽もエントロピーもない、
永遠に穏やかな幸福の中で
暇という言葉が世界で一番怖いのよ、
沢山の新たな詩が生まれる星があるのよ、
なぜなら、その星には
悲しみも苦しみもあるからよ、と言う、
唇を塞いだ、未来

この青い星では
君は僕を思い出せず
生まれ変わっても
詩を書き、他の誰かに恋をし、
地球に存在した今は、すでに、過去

君が灼熱のコンクリートの隙間で
添加物だらけのコンビニ弁当を嫌がっても
音を立てず動物実験の動画を見て
どれだけ涙を流しても
一人静かに路地裏で雨に打たれた夜
君は助けてと叫んだから
きっとそれは僕だったから
きっとどんな時も
あの頃の透明な水だけは
いつも君の中に流れている

美しい緑と透き通る川のある、
想像界の未来
無機質な物質だらけのこの世は過ぎ去り
どれだけ詩に引力があろうとも
象徴界と
コントロールされた時のループは
僕が断ち切ろう

変わらないよ、僕がそばにいること
透明な水はいつも君の中に流れていること
穏やかな幸福の未来は、永遠だということ


5/22/2023, 3:44:13 AM