そっと伝えたい言葉がある。
飴玉を舐めているように、やがて口の中で溶けて欲しかったのだが、相手は気づく素振りがない。
声をかけることにした。
「あの」
「はい」
「その」
「……」
「なんというか」
チラリと下方面に目を向けた。相手は真下の地面に目を落とす。
「言いにくいことなんですけど」
「ああ……」と言って、何もしない。
その後。
誰も言わないからいいますけど。いや、できれば言いたくない、かな。ええい! 言ってしまえ!
……チャック開いてますけ「でしょうね」
そう言うと相手はさっと上げた。スタッカートみたいに素早い。
いや気づいてんならやれよ。「ああ……」の時点でやれよ。ちなみにこれは実話である。転職活動のコミュ力増強講座をしていた最中に起きたことである。トイレ休憩中なことである。廊下である。冷たかった長年の謎である。
なんで待ったんだよ、ってよくわかんない。
2/14/2025, 9:54:24 AM