茶園

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短い小説 『秋風』

 何もない空間。空も灰色で草も灰色に染まった、現実の世界とは思えないような殺風景な世界。
 その世界の中で、ここがどこか分からず、何も持たずに茫然と立ち尽くしている男がいた。
 男は顔を上げる。その先には、鮮やかさとはかけ離れた、雲何一つない空。霧も風もないため、灰色なのになぜか、鮮やかに見える。この矛盾は皮肉としか言えない。

 ここに来てから、どのくらい経ったか。
 男はもはや、時差ボケや曜日ボケなんてする余裕もなかった。道に迷った末、ここで長く過ごしてきた。今では何もかももう慣れてしまった。

 ある日、草原が少し揺らぐのが見えた。
 最初は気のせいだと思ったが、草が歪み、空も僅かだが歪んだ荒い波紋のようなものが見えた。草や空は、低く透き通るような音で囁き出す。肌に乾いた涼しい空気が通った。

 ああ、風だ。

 それに、この風は秋の風だとすぐに分かった。
 何もなく、何も感じることがないから少しの風でも敏感に感じ取れる。
 秋風で秋を実感する。
 ああ、今は秋なんだなと現実の風を受け止め、自分は生きていて異世界ではないことを確信し、安心する。

11/15/2022, 9:00:49 AM