雨音につつまれて
傘が弾き返す雨音につつまれて、ヘッドホンの中の音が負けていることに軽く舌打ち。雨が降るというだけで外に出るのは億劫だし、それがバイトとなれば尚更。雨だといつも暇なバイトの時間がより長く感じる。ため息をつきながら花を愛でては掃除でもして時間を潰す。「今日はもう閉めようか。」なんていう個人店すぎる自由な言葉に頷き、叔父さんと一緒に片付けを始めた頃、店の前に人影。不安そうな顔つきをした常連さんが中を伺うようにしていたから慌てて出ていく。
「川崎さん。いらっしゃいませ。」
「あ、お取り込み中ですか…?」
「いや、今日は雨だし人が来なくて、叔父さ…店長が早めに閉めちゃおうかって。でも川崎さんがいらっしゃってくれるのは嬉しいですしありがたいので。ごゆっくりご覧ください。」
そう。来てくれるのが嬉しいなんて限りなく建前のように聞こえるけどこれは本心だ。川崎さん。自分が唯一バイト先で楽しみにしている人。普通こんなタイミングの来店嫌に決まってるけど川崎さんなら良い。むしろ顔を見れただけでも満足なのだ。この感情を好きだとか恋だとか安易に片付けるつもりはない。
6/11/2025, 1:05:30 PM