[モンシロチョウ]
どうやら昨日、学年のマドンナが死んだらしい。
朝のホームルーム、先生の口から突然飛び出したその言葉を理解するには、多少の時間がかかった。
彼女の死は、わからないことが多いようだ。
先生から死んだ以上の説明は無く、次に言ったのはこれからやる行事の埋め合わせをどうするか。
まだ彼女が死んだという現実を受け入れられていない人もいるのに、随分酷な先生だ。
まあ、でも、多分、彼女は望んで死んだ。
隣の机に置かれた白い花瓶を見ていると、この前のことがハッキリと思い起こせる。
『モンシロチョウってね、成虫だと一週間くらいしか生きられないの』
いつも通りの鈴の様な声で、彼女は言っていた。
『蛹になって、体をどろどろに溶かして、苦労してやっと可愛い姿になったのに、たったの一週間』
外を見つめる整ったその瞳が、やけに憂いを帯びていたのを覚えている。
『だからあの可愛らしさを永遠にするには、標本にするしかないの』
悲しそうな、嬉しそうな、この世全ての感情をぐちゃ混ぜにしたような声色だった。
彼女の願いは、望みは、叶ったのだろうか。
5/10/2024, 2:26:02 PM